2015年 04月 08日
突然ですが、「感染性の蜂窩織炎と見間違う病態」とでも訳される論文タイトルの、 Narrative review: diseases that masquerade as infectious cellulitis.という論文を引用します(Ann Intern Med. 2005 Jan 4;142(1):47-55., PMID: 15630108)。 ここにTable 1.として、その病態リストが掲げられており、しかも「コモンなもの」として挙げられています。 ここに、「Familial Hibernian fever」と聞き慣れない病名があります。 これは、1982年Williamsonらの報告が最初とされていますが、先に答えをいうとこの「Familial Hibernian fever」が、のちにTRAPS(TNF-associated periodic syndrome)と呼ばれることになります。 Williamsonらの最初の記述では、Familial Hibernian fever(TRAPS)は『反復性の発熱・腹痛・限局性の筋痛・紅斑性の皮膚病変を呈するアイルランド人・スコットランド人家系(3世代・5家系・13名)』として報告されています。常染色体優性の形式であり、胸膜炎・WBC増多・ESR高値があり、また自然軽快傾向があり良性の経過だったという。 さきほどからトラップス・トラップスと何を言っているかというと、一応日本にも存在する疾患で、患者会のサイトに説明も記載されています。これよりちょっと難しいサイトもあります。 日本にもTRAPSの診療ガイドラインがあって、 ご覧のような多彩で、ある意味非特異的な症候の組み合わせで疑うことになります。 私も、TRAPSを疑う機会は多いですが、遺伝子変異を確定して診断できたことはありません。 日本の第一例は、現・久留米大学の井田先生らの報告で、SLEと併存していた症例になります。 このケースで面白いのは、「筋膜炎」を合併していたということです。 不明熱精査的にガリウムシンチを施行したところ、両大腿部に集積があったとのことで、造影MRIを追加したところ、 上記のように、筋膜炎に一致する所見が得られています。しかし井田先生らはここへ筋・筋膜生検を行い、「monocytic fasciitis(単球性筋膜炎)」に一致する病理所見まで得ています。 Williamsonの報告にもあった「(限局性)筋痛」という症状は、ガイドライン上・診断分類にも有力な参考所見とするものであり、TRAPSを特徴づける症状ともいえますが、この病態・メカニズムが「monocytic fasciitis(単球性筋膜炎)」である可能性があることがわかりました。 上記で筋痛の頻度は30%とやや低いのですが、Williamson最初の記述にもあったこの「(限局性)筋痛」という症状は大切にしたい症状だと思いました。ここからさらに私見ですが、筋膜炎と筋炎は、独立しているというよりは同じスペクトラム上にあるもので、連続性のある病態なのではと思っています。抗体が関与する自己免疫疾患ならともかく、自己炎症という病態の範疇なら”筋膜のみを標的にした”という病態は想起しにくいのではと。よって、「筋炎」も起こり得ると思います(文献確認を怠ってすいません)。 よって、「小児〜若年で、周期性の発熱・炎症反応上昇があって、謎の非感染性の蜂窩織炎があって、筋痛がある」ような症例はTRAPSを想定してよいのではないでしょうか。 最後に参考資料・おすすめ書籍です。 Autoinflammatory Disorders, an Issue of Dermatologic Clinics, 1e (The Clinics: Dermatology) William Abramovits MD 固定リンク:http://www.amazon.co.jp/dp/1455775886 これなのですが、kindle版もあります。 書籍版のp390に、TRAPSの皮膚写真が紹介されていまして、最後にそれを引用して終わりにします。 なんかけっこうひどい皮膚所見ですね!確かに蜂窩織炎そっくり!
by intmed
| 2015-04-08 20:39
| 周期性発熱症候群
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アバウト
全身を系統的におかす病気の診断に関心があります。原因不明の発熱で困っている患者さん、あるいは医師の方から診療の相談を受け付けています。国内初の不明熱外来。不明熱・不定愁訴。世の中に「不」というフラグを立て続けるお仕事。国立国際医療研究センター 臓器不定科。 by 國松 淳和 Kunimatsu Junwa, M.D. カテゴリ
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